地価上昇の波が全国に広がっている。国土交通省が今年3月に発表した「公示地価」は3年連続の上昇となり、これはバブル崩壊以降初めてのこと。それを受けて国税庁が7月に発表した「路線価」も同様だ。東京、愛知、大阪をはじめ、18都道府県で上昇し、不動産市場が活況であることがわかる。

 こうしたなかで企業はどう動くべきなのか。三菱地所リアルエステートサービス鑑定部の山中英明、高垣勇喜の両氏に地価の傾向について話を聞いた。

キーワードは「消費」「インバウンド」「再開発」「交通インフラ」

──各地で地価の上昇が見られます。今年はどんな特徴がありますか。

山中 大きな流れで見ると「消費」「インバウンド」がキーワードとして挙げられます。わかりやすいのは全国で最高路線価を更新した東京・銀座中央通りの『鳩居堂』前でしょう。希少性が高く、市場の競争原理で価格が値上がりしていますが、背景には国内やインバウンドによる消費行動があります。売り上げが増えれば人気も高まるという、良い意味でのスパイラルです。 

高垣 銀座は土地のブランド化がより一層進んでいます。企業が広告効果を含めて価値があると認めれば、強気で買うこともできる。高くなる要素が多いのです。 

山中 要素で言えば、「再開発」「交通インフラ」「人口流入」も挙げられます。首都圏に限らず、地方でも都市部で再開発プロジェクトが進行し、将来の再開発を見すえた動きも水面下で見られる。そういう意味では、さらに地価が上昇する材料が揃っています。再開発されたエリアに企業や人が集まり、より経済や消費活動が活発に行われる。そういった良い循環が見られますね。

東京・横浜・大阪・名古屋、「大都市圏」の地価の傾向

──では地価をエリア別に見て行きましょう。まず東京はどうですか。 

「インバウンドも予想以上で、実需が伴っている」と鑑定部次長・山中氏は指摘する。

山中 東京に関しては、海外情勢などの要因を除けば下がる要素が見当たりません。インバウンドも予想以上で、実需が伴っている。当面は金融緩和が続くことが予想され、投資チャンスとして資金が流入する点も追い風になります。 

首都圏近郊では、横浜駅西口が再開発に伴って上昇しています。三菱地所グループが開発に力を入れている「みなとみらい」エリアも企業の進出が進んでいますね。埼玉では、大宮などターミナル駅ではホテル建設が続いているため上昇しています。しかし、今後も安定的に上昇するのか、都心の余波による一時的な現象なのかは、見極めなければいけない段階にあるといえるでしょう。 

──地方都市の雄、大阪についてはどうでしょうか。

高垣 大阪では、JR大阪駅北側の「うめきた2期」で再開発が進み、心斎橋や難波も、関西空港が近いことからインバウンドの影響で上昇しています。さらに、大阪市此花区にある人工島「夢洲」での2025年万博誘致を目指し、IR(統合型リゾート)も進行するなど、景気の見通しが明るい。大阪は投資シナリオが描きやすい状況にありますね。 

しかし、オフィスに関しては、新規供給が少ないため上昇してはいますが、梅田に一極集中している傾向が見られ、本町、堺筋本町、淀屋橋エリアはやや苦戦しています。今後は、オフィス街のキタと商業地のミナミをつなぐエリアをどう活性化していくかが課題になっていくでしょう。

──リニア新幹線の開業を控える名古屋も再開発が進んでいるようです。 

高垣 特に名駅周辺では再開発により企業、商業施設の集積が進んだことで地価が上昇し、地価上昇率でも全国5位(都道府県庁所在地の最高路線価)に入っています。また、リニア開業を見込んだ収益性では説明できない局所的バブルの様相も見られます。

福岡・長崎・神戸・広島、注目の「地方観光都市」 

──地方の観光地でも地価の上昇が見られますが、インバウンド需要で特に注目すべきエリアはありますか。 

山中 九州・沖縄には注目しています。今後発展が見込まれるアジア各国に近く来訪者が来やすいからです。また、長崎をはじめ九州各所でさまざまな観光資源があり、特に世界文化遺産の指定も増えてきているので、今後さらに観光需要が伸びる可能性がありますね。また、ほかの地方圏においても、モノ作り、クールジャパンや日本酒ブームのように、地場産業で消費を高める事業を育てることが期待できる。さらには、産学官民が連携して地域に経済効果をもたらすことも可能になります。

高垣 九州でいうと、福岡の天神周辺では、航空法で制限された建物の高さ制限が緩和されたことで再開発が進んでいます。新幹線が停車する熊本や鹿児島駅周辺も上昇しましたが、こちらは交通インフラの影響が大きい。

山中 仙台は震災復興で街に活気が戻りました。交通インフラの整備の進行も追い風になりました。2015年に地下鉄東西線が開業して市街地への流入のしやすさが面的に広がりました。中心地への人の流入が高まったことで地価上昇の流れが非常に顕著になっている。震災復興のステージから、成長や発展という次のステージへ移行しています。

──それら以外の注目エリアを挙げるとすれば、どこになるでしょうか。

高垣 神戸と広島ですね。今年の特徴として、神戸三宮や広島の上昇率が高いことが挙げられます。すでに都市部の物件価格は上昇しており、利回りを求めて大阪や名古屋などの大都市圏から政令指定都市に投資エリアを拡大していく傾向が見られます。

企業はどう動けばいい? 鑑定部の取り組みとは?

──これだけ不動産市場が活発になると、企業の不動産戦略がより重要になってきます。不動産鑑定の立場から見て、どう動くべきだと考えますか。

山中 日本の産業構造は大きく変わってきました。今後所有不動産の価格が上がるか下がるかは、事業主の考え方によって異なると思います。ベンチャー企業をはじめ、さまざまな事業が立ち上がっていく業種では、価格が下がらないなら早めに対策を講じるべきです。都市部に価格が下がる要因がないとすれば、企業としても動きやすい。動いても価値を高められる要素が強いといえます。

関西鑑定課長・高垣氏。「所有不動産を売るいいタイミング」と話す。

 高垣 現在は不動産価格が上げ止まり傾向にあり、売り手と買い手の価格目線が合わないケースも目につき、売買取引が減少しています。慎重になる局面ですが、一方、所有不動産を売るいいタイミングともいえます。

──鑑定部の役割も、より重要度が増していきそうです。

山中 企業における不動産戦略のニーズが高まれば、確かな専門性を持った不動産鑑定評価が求められます。もともと、三菱地所グループ内では三菱地所投資顧問にも鑑定部門があったのですが、4年前に事業統合し、現在は鑑定部がグループ内唯一の鑑定部門になりました。 

昨年の顧客層別の取引実績は、84%が民間法人、16%が個人。当社が関わる案件やプロジェクトの中で鑑定評価や鑑定士のスキルが必要とされるケースもあれば、外部から鑑定評価のみをご相談いただくこともあります。お客様からは、当社の信用力や情報量、グループ内で不動産サービスをワンストップで対応できる点が評価されていると感じています。

──依頼に対してどのような鑑定評価を提供しているのでしょうか。

 山中 具体的には、不動産鑑定評価基準に則って作成する「不動産鑑定評価書」、価格等調査ガイドラインに沿って不動産鑑定士が作成する「不動産調査報告書」、不動産の有効活用検討のための分析、投資判断のための参考資料となる「不動産簡易レポート」などの提供により、お客様の目的やご要望に柔軟に対応しています。

──それでは最後に鑑定部の今後の取り組みについて教えてください。

山中 鑑定部では、法人が所有する大きな不動産だけでなく、個人の方がお持ちの不動産についてもご相談を積極的に受け付けています。個人のお客様の場合、最近は特に相続に関わる不動産評価のご相談が増加しています。もし相続で不動産関連についてお困りのことがあれば、ぜひ鑑定部にご相談ください。



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